東京地方裁判所 平成9年(特わ)443号 判決 1997年6月30日
本店所在地
東京都豊島区高田一丁目二八番一二号
株式会社創新
(右代表者代表取締役 秋屋守行)
本籍
東京都練馬区豊玉北一丁目二〇番地
住居
同豊島区高田一丁目二八番一二号加藤ビル
職業
会社役員 秋屋守行
昭和二七年九月一一日生
主文
被告会社株式会社創新を罰金二〇〇〇万円に、被告人秋屋守行を懲役一〇月に処する。
被告人秋屋守行に対し、この裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社株式会社創新は、東京都豊島区高田一丁目二八番一二号に本店を置き、自動車用中古部品の輸出及び販売等を目的とする資本金六〇〇〇万円(平成七年一一月一五日以前は一六八〇万円、平成五年一一月一五日以前は四八〇万円)の株式会社であり、被告人秋屋は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括していたものであるが、被告人秋屋守行は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上
第一 平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八八〇七万一八六円(別紙1の1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年一〇月一八日、東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八八四万七五四九円で、これに対する法人税額が二〇一万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第六三三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三一七二万三一〇〇円と右申告税額との差額二九七〇万九〇〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた
第二 平成五年九月一日から平成六年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七四七九万二一四八円(別紙1の2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成六年一〇月二六日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一七九九万六八四九円で、これに対する法人税額が五九〇万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二七二〇万四四〇〇円と右申告税額との差額二一二九万八五〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた
第三 平成六年九月一日から平成七年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七三七九万六三七六円(別紙1の3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成七年一〇月二六日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二〇二四万二五八〇円で、これに対する法人税額が六七二万四八〇〇円である旨虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二六八〇万七六〇〇円と右申告税額との差額二〇〇八万二八〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた
ものである。
(証拠の標目)
括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(乙2ないし9)
一 小木美知子(甲23)、小西宏城(甲24)及び秋屋美智子(甲25)の検察官に対する各供述調書
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲21、22、26)
一 大蔵事務官作成の期首在庫商品調査書(甲1)、当期仕入高調査書(甲2)、期末在庫商品調査書(甲3)、給料手当調査書(甲4)、複利厚生費調査書(甲6)、旅費交通費調査書(甲8)、交際接待費調査書(甲10)、雑収入調査書(甲13)、受取利息調査書(甲14)、役員賞与の損金不算入額調査書(甲16)、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書(甲18)及び領置てん末書(甲30)
一 登記官作成の履歴事項全部証明書(乙11)及び閉鎖登記簿謄本(乙12)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の雑益調査書(甲19)
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成九年押第六三三号の1)
判示第二、第三事実について
一 大蔵事務官作成の雑費調査書(甲12)及び雑損調査書(甲20)
判示第二の事実について
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成九年押第六三三号の2)
判示第三の事実について
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲5、34)
一 大蔵事務官作成の消耗品費調査書(甲7)、車両維持費調査書(甲9)、支払手数料調査書(甲11)、損金の額に算入した罰金調査書(甲15)及び交際費等の損金不算入額調査書(甲17)
一 押収してある法人税確定申告書一袋(平成九年押第六三三号の3)
(法令の適用)
罰条
被告会社につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)
被告人につき 判示各事実につき、いずれも法人税法一五九条一項
刑種の選択
被告人につき いずれも懲役刑
併合罪の処理
被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項
被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条
(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予
被告人につき 刑法の二五条一項
* なお、右の刑法四五条等の適用は、平成七年法律第九一号附則二条二項、三項によるものである。
(量刑の理由)
本件は、自動車用中古部品の輸出入及び販売等を目的とする被告会社が、三事業年度にわたり合計七一〇〇万円あまりの法人税を免れた事案であるが、ほ脱額は少なくなく、ほ脱率も通算約八二・九パーセントと高率である。また、その手口は、従業員に指示して架空の仕入伝票を作成させたり、経理担当者に指示して公表帳簿に計上する金額を操作させるなどの方法により、架空仕入の計上、期末在庫商品額の圧縮、雑収入の除外などを行って所得を圧縮するという計画的かつ悪質なものである。本件の動機をみても、被告人は、事業拡大のための資金や為替相場の変動による損害に備えるための資金を確保したかったなどと述べているが、そのような事情があるにせよ違法な手段による蓄財が許容されるわけではなく、格別斟酌するに値しないものである。これらの点からすると、被告人及び被告会社の刑事責任は重い。
しかし、被告会社は、その後修正申告の上本件に関する本税、延滞税等を完納していること、被告人は本件犯行を認め反省の態度を示していること、本件後、被告会社は新たな経理担当者を雇い入れるとともに顧問税理士を置くなどして経理の適正化を図っていること、被告人には前科が罰金一犯しかないことなど、被告人及び被告会社のために酌むべき事情も存するので、以上の諸事情を総合考慮し、主文の刑が相当と判断した。
(求刑-被告会社・罰金二五〇〇万円、懲役一〇月)。
(検察官福垣内進、私選弁護人神宮壽雄、中島松三各出席)
(裁判官 保坂直樹)
別紙1の1
修正損益計算書
<省略>
別紙1の2
修正損益計算書
<省略>
別紙1の3
修正損益計算書
<省略>
別紙2
ほ脱税額計算書
株式会社 創新
(1) 自 平成4年9月1日
至 平成5年8月31日
<省略>
(2) 自 平成5年9月1日
至 平成6年8月31日
<省略>
(3) 自 平成6年9月1日
至 平成7年8月31日
<省略>